「給与所得者の特定支出控除」とはどのような制度か?

自営業では経費を使えば使うほど所得税や住民税の節税ができます。
一方、会社員は経費にあたるものとして給与所得控除が受けられますが、年収に応じて金額が決められています。
仕事に使った費用を自己負担した場合でも、基本的に経費に加えることはできません。
しかし、「給与所得者の特定支出控除」では、あらかじめ定められた用途の経費で一定額を超えるものについて、税金計算上の経費に加えることができます。
この記事では「給与所得者の特定支出控除」とはどのような制度か、どのような経費に適用できるのかについて解説します。

目次

1  会社員も多額の経費の持ち出しは経費にできる
2  特定支出控除にはどのようなものが認められる?
  2.1  通勤費
  2.2  転居費
  2.3  研修費
  2.4  資格取得費
  2.5  帰宅旅費
  2.6  勤務必要経費
3  特定支出控除には会社の証明が必要

会社員も多額の経費の持ち出しは経費にできる

「給与所得者の特定支出控除」は、仕事に必要な6種類の支出(通勤費、転居費、研修費、資格取得費、帰宅旅費、勤務必要経費)のうち、給与所得控除額の1/2を超える部分が経費として認められるものです。
本来、仕事に必要な費用は会社が負担するべきですが、何らかの事情でやむを得ず多額の自己負担をする場合に「給与所得者の特定支出控除」が適用できます。
給与等の収入金額(年収)に応じた給与所得控除額は下の表のとおりです。

表1:平成29年分の給与所得控除額

給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) 給与所得控除額
1,800,000円以下 収入金額×40%
650,000円に満たない場合には650,000円
1,800,000円超3,600,000円以下 収入金額×30%+180,000円
3,600,000円超6,600,000円以下 収入金額×20%+540,000円
6,600,000円超10,000,000円以下 収入金額×10%+1,200,000円
10,000,000円超 2,200,000円(上限)
※収入金額が660万円未満の場合は、収入金額に応じて別表により給与所得控除額が定められていますが、おおよその金額は上記の算式で計算できます。

【引用元:国税庁「No.1410 給与所得控除」】

特定支出があった場合に経費にできる金額(所得控除額)と節税ができる金額の考え方の例をご紹介します。

【例】年収500万円の人が100万円の特定支出をした場合
給与所得控除:500万円×20%+54万円=154万円
特定支出が100万円の場合は、100万円-154万円×1/2=23万円が所得から控除できる。
所得税の税率を10%とすると23万円×10%=2万3,000円が節税できる。

特定支出控除にはどのようなものが認められる?

「給与所得者の特定支出控除」が認められる支出は、通勤費、転居費、研修費、資格取得費、帰宅旅費、勤務必要経費の6種類です。

これらの支出であっても、会社から支給された部分については認められません。
この章ではこれら6種類の支出について、それぞれ具体的にどのようなものが認められるかをご紹介します。

通勤費
税法上は通勤費が特定支出として経費に認められます。
ただし、正規雇用であれば通勤費は会社が負担するため、特定支出にすることはできません。
会社から通勤費が支給されない非正規雇用であれば、通勤費を特定支出にすることができます。
マイカー通勤をしていて会社から通勤費が支給されない場合は、ガソリン代、通行料、車検代が特定支出として認められます。マイカーの購入費用は認められません。

転居費
転勤してから1年以内に転居したときの転居費も特定支出として経費に認められます。
引越の運送費のほか、本人や家族が移動するための交通費・宿泊費も含まれます。
ただし、転勤は会社の都合によるものであり、通常、転居費は会社が負担するため、実際に特定支出として経費にできるケースは少ないでしょう。

研修費
仕事に直接必要な技術や知識を習得するために受ける研修の費用も特定支出として経費と認められます。
研修を受けるための交通費も含まれます。
なお、会社から補助を受けた場合や、教育訓練給付金、母子(父子)家庭自立支援教育訓練給付金が支給された場合は、その金額を除きます。

資格取得費
研修費と同様に、仕事に直接必要な資格を取得するための費用も特定支出として経費に認められます。
対象となる資格は、弁護士、公認会計士、税理士、栄養士、調理師のほか、簿記・珠算・英語の検定、運転免許、危険物取扱者免許などです。
授業料などの対象期間が年をまたぐ場合はそれぞれの年に対応する部分を特定支出としますが、入学金は支出した年の特定支出とします。
結果として資格が取得できなかった場合でも、資格取得のために使った費用は特定支出として経費に認められます。

帰宅旅費
単身赴任をしている人が勤務地と自宅を行き来するための帰宅旅費も特定支出として経費に認められます。
帰宅旅費は会社が負担する場合もありますが、月1回または2回といったように上限が定められていることが一般的です。
これらの上限を超えて帰宅した場合は、特定支出に経費にすることができます。
ただし、特定支出控除でも月4回(4往復)の上限があります。

勤務必要経費
このほか仕事のために必要な経費は65万円を限度に特定支出として経費に認められます。
具体的には次のようなものがあげられます。

仕事に関連する書籍、雑誌、新聞(主に専門紙)等の購入費(図書費)
制服、事務服、作業服など職場での着用が定められている衣服の購入費(衣服費)
仕事上の関係者に対する接待、供応、贈答などの費用(交際費等)
衣服費にはスーツの購入費用も含まれます。
ただし、私服を着用することが職場の慣例となっている場合の私服の購入費用は含まれません。

特定支出控除には会社の証明が必要

「給与所得者の特定支出控除」は幅広い種類の支出に対応していますが、実際に特定支出控除を受けるには次の条件を満たす必要があります。

特定支出が仕事のために必要であることを会社が証明すること。
年間の特定支出が給与所得控除額の半分(最低32万5,000円)を超えること。
先ほど勤務必要経費の項目で、スーツの購入費用も特定支出に含めるとお伝えしましたが、上記の条件に当てはめると、スーツ代だけで特定支出控除が適用されて経費で落とすことは簡単ではありません。
実際には、複数の種類の特定支出があって、それらのすべてについて会社の証明が受けられる場合に限られます。

このように特定支出控除が適用でき経費で落とせるというケースは限定的ですが、会社員でも経費が認められて税金の一部が戻ってくることは知っておいてもよいでしょう。
特定支出控除を受けて経費で落とすためには、会社員であっても確定申告をしなければなりません。
申告書と源泉徴収票のほか、「特定支出に関する明細書」、「給与の支払者の証明書」、「搭乗・乗車・乗船に関する証明書」や支出した金額を証する書類(領収書など)が必要です。